論文紹介(3)

「An Improved Pairs Trading Strategy based on Switching Regime Volatility」
(Marco Bee, Giulio Gatti, 2015/7/27)

2つの商品・株式インデックスのペアトレードに関する論文です。
タイトル的にはレジームスイッチがメインに見えますが、ここで取り上げたのは別の理由からです。

ペアトレード、いわゆる「鞘取り」は、個別銘柄取引では鉄鋼株などでよく行われる手法です。
2つの銘柄の価格の鞘の開き具合、閉じ具合を見て、割安株をロングし割高株をショートします。
鞘取りで重要なことは、当然ですが以下の2点です。

 (1)ペアとなる銘柄をどうやって選定するか
 (2)どのようなスプレッドの水準で仕掛けるか

ここで経験的・感覚的に、

 (1)鉄鋼やメガバンクなどの同業種の2銘柄で相関の高いものを候補として選定する。
 (2)2つの商品(銘柄)の価格の差分にボリンジャーバンドを当てはめて特定の水準で逆張りする。

などの手法が主流となっています。
しかし上記の手法は「相関が高い→鞘を埋める」という因果性があることが前提であり、
当然ながらそのような統計的保証は全くありません。


ヘッジファンドや金融機関では常識として広まっていますが、
ペアトレーディングの銘柄選定には「共和分検定」が使われます。
この手法を用いると、少なくともバックデータから「統計的に鞘を埋める保証」が存在することになり、
すなわち「鞘取り」でなく「統計的アービトラージ」と呼ぶことができます。

この論文では、各商品・株式インデックスペアについて、
①線形回帰有意度、②相関係数、③共和分有意度の3つのフィルタを用いて
ペアトレードした場合の累積リターンが記載されています。

この結果を見ると、③共和分有意度が優れていることが分かります。
共和分検定の有効性が良く分かる論文の1つです。

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なお共和分検定は、2つの銘柄の線形回帰の残差系列に単位根検定(ADF検定やPP検定)を行います。
残差系列が単位根と判断された場合、残差系列には「平均回帰性」が統計的に保証されます。

y(t)=ax(t)+ε(t)において、残差系列のε(t)が「平均回帰性」を持つとき、
当然ですが式を変形させて、y(t)-ax(t)も「平均回帰性」を持つことになります。
y(t)-ax(t)はスプレッドの式そのものであり、
すなわち「鞘が閉じる(平均に回帰する)」ことが統計的に保証されていることになります。

またこのことから分かるように、
2つの変数のスプレッドの計算は、単純に比率を掛けたり足したり引いたりするのでなく、
回帰係数aを用いることで統計的な意味が生まれるのです。


難しそうに聞こえる「共和分検定」ですが、
R言語を使えばデータのインポート後、わずか1行でできてしまいます。

> 共和分検定P値 <- PP.test(lm(data_y~data_x)$residuals)$p.value


・・・少し突っ込みすぎな感じが出てきたので、次週はもう少し軽めの話題にします。

コメントを頂きましたので回答します。

◆コメント内容
 共和分検定P値 <- PP.test(lm(data_y~data_x)$residuals)$p.value
 上のコードだと切片項が含まれてしまい、
 y(t)=ax(t)+ b + ε(t)というモデルになってしまうと思うのですが、
 それでも大丈夫なのでしょうか?

◆回答
 これはブログ本文が間違いでコメント頂いた内容が正しいものです。
 ご指摘、ありがとうございます。
 以下、間違いを訂正いたします。

 (誤)
  y(t)=ax(t)+ε(t)において、残差系列のε(t)が「平均回帰性」を持つとき、
  当然ですが式を変形させて、y(t)-ax(t)も「平均回帰性」を持つことになります。

 (正)
  y(t)=ax(t)+b+ε(t)において、残差系列のε(t)が「平均回帰性」を持つとき、
  当然ですが式を変形させて、y(t)-{ax(t)+b}も「平均回帰性」を持つことになります。

2017年04月19日 21:32| UKIURL