HFT・アルゴリズム(4)

少し表題から話が逸れますが、東京証券取引所(以下、東証)の取引システムについて紹介しておきます。

東証の現物取引にはアローヘッドと呼ばれるシステムが使われています。
アローヘッドは2010年1月に稼動開始した高速取引システムであり、富士通がシステム開発を担当しています。
2015年9月にシステムがリニューアルされ、高速化・冗長化が進んでいます。

アローヘッド以前の取引システムを紹介してもあまり意味がないので、
ここでは2015年9月のリニューアル内容に焦点を当てながら話を進めます。
以下、アローヘッドのリニューアル内容をまとめた一覧表です。

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これらの内容を見ても、いまいちピンと来ないと思います。
それもその筈で、表中に出てくる「取引参加者」とは個人投資家のことではなく、
東証のネットワークに直接接続できる証券会社や一部のファンドを指しています。
これらの内容のうち、個人投資家に直接関係してくるものは「1-①呼値の適正化」くらいしかありません。
「2信頼性の向上」はフェールセーフやリミッターの機能であり、完全に機関投資家向けのサービスです。
また2-④のダミーシンボルは、アルゴリズムのテスト運用(つまりデバッグ)に使われます。

東証(というかJPX)は寡占状態にあるので国内における競争は不要なのですが、
ある程度水準の高いサービスを提供していないと世界の取引所のトレンドから取り残されてしまい、
外資の流入が少なくなってしまいます。
東証1部の出来高の8割は外国人投資家によるものだということを忘れてはいけません。


さて、表題に関連して注目しておきたいのが「3処理能力の向上」です。
処理時間が半減されていますが、これについても個人投資家は直接の恩恵を受けることができません。
個人投資家は証券会社を通さなければ東証のネットワーク(アローネット)にアクセスできません。
よって個人投資家が処理能力向上の恩恵を受けるためには、証券会社の取引システム
(例えばSBI証券であればHYPER SBI、楽天であればMarket Speedなど)の処理能力向上が必要になります。

どうしても高速化の恩恵を受けたい場合、
1つの手段としてファンドを立ち上げて東証の取引資格を取得するという方法があります。
(こうすればできるよ、というプロセスだけを紹介します。実際に個人が実践するには非現実的です)

東証の取引資格を取得するためには、まず金融商品取引業者でなければなりません。
従って、まずは金融庁に対して金融商品取引業の登録を申請する必要があります。
また取引業の実態として、資本金3億以上、純資産5億以上、業務実績3年以上であり、
直近の数年で黒字経営で収益性が良好であることが求められ、さらに経営体制にも審議が入ります。
これらをクリアし、ネットワークと取引システムの環境を整え、入会金を1億円(!)支払うことで
ようやく「取引参加者」となることができます。


ではこれで高速化の恩恵が受けれるかと言えばそうではありません。
アローヘッドの処理能力を生かすためには、コロケーションサービスを利用することが不可欠です。
コロケーションサービスとは、JPXの敷地内にプログラムをビルドインしたサーバを設置できるサービスです。
このサービスを利用することにより、JPXのネットワークとの物理的距離が極小化され、
情報取得と注文送信時間を極限まで(具体的には数十usec程度まで)短縮することが可能です。

そこまでしなくても、と思うかもしれませんが、信号の伝播速度は光速を超えることはありません。
よって300km離れたところから注文送信すると、注文が届くまでに最低でも1msecの時間が掛かります。
注文応答速度が0.5msecのため、ゼロ・ディスタンスに対して応答時間が3倍劣化することになります。
コロケーションサービスはサーバ1ラック当たりで月額100万程度だそうです。
1億の入会金に対しては小額のため、基本的に設置するものなのかもしれません。


前回の記事で紹介したとおり、日本市場でマーケットメイク型HFTが席巻しているということはありませんが、
それでもイベントに乗じる高速取引ファンドは存在します。
個人投資家はこれらの事情を加味しながら、上手く立ち回る必要があるのです。